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Lee-Byung-hun addicted

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第5話

『Recollection』 第5話



「揺、おめでとう。

きっといい記念になるだろうと思ったから。

晋と幸せになれよ。新婚旅行はまたブルキナに来いよ。」

そういうと主任はゲラゲラと笑った。

皆とても楽しそうだ。

呆然とする揺は集まった群集の中で

ゲラゲラ笑っている晋作を見つけた。

「これ、どういうことよ。」

「俺が聞きたいよ。お前の送別会だって呼ばれたから

着てみたら着替えさせられてさ・・

結婚式だって言われてビックリしてたところだ。」

「そんな~。あの待って待って。違うの。彼とは違うの。」

必死で説明しようとする揺の言葉を

ゆっくり聞こうとするものは誰もいなかった。

呆然とする揺の身体にはいつの間にか綺麗な花嫁衣裳が撒きつけられていた。

皆揺が喜んでくれることを信じて疑っていなかった。

あっという間に式は人前式で執り行われ

とっかえひっかえ揺の前に現れては

お祝いの言葉をのべプレゼントやご祝儀を渡していく。

「揺・・・・俺と結婚するのやっぱり嫌か。」

佇む揺の隣でにこやかにお祝いを受け取りながら

晋作が真面目な声で言った。

「嫌も何も・・・・考えられない。」

「でも、嫌いじゃないんだろ?」

「・・・・・」

「だったら皆の厚意だからここはしっかり受け取って

後でゆっくり考えろ。

もしどうしてもダメだったら・・・・・離婚してやるから。

俺は結婚したままがいいけど。」

晋作はそういうと揺を見てにっこりと笑った。

「ほら、笑って。皆が心配するから」

揺はそういわれ涙を流しながら必死に微笑んだ。



その夜。

皆が用意してくれた綺麗に整えられた部屋に晋作と揺はいた。

「・・・・晋さん・・・・」

「何も言わなくていいよ。わかってるから。

今日のことはココを離れれば二人だけしか知らないことなんだから。」

「・・・ごめん・・・

私がみんなにはっきり言わなかったから誤解されちゃって」

「この国じゃ俺たちにみたいな付き合いをしてたら

一日で子供が出来るらしい。

そんな人たちに俺たちの関係を話してもなかなか理解してもらえなくて

当然さ」

「明日・・・帰るんだろ。」

「・・・」

揺は黙って頷いた。

「そうか・・・・元気でな。困ったことがあったらいつでも連絡しろよ。

恋人に振られたときは特に。

俺が幸せにしてやるから。」

そういうと晋作は悪戯っぽく笑った。

彼の笑顔を見た途端、揺の目からは涙があふれ出した。

「俺のために泣くな」

彼はそういうと両手で揺の涙を拭いそっとおでこにキスをした。

「新婚初夜がおでこにキスだけなんて・・・・

信じられないな。俺ってなんて紳士的なんだろう」

そういいながら彼は固そうなソファーに横たわった。

「奥さんはそっちでゆっくり休めよ。お休み」

彼は揺に背を向けて寝息を立て始めた。

揺はその後も泣き続けた。

胸が痛くてたまらなかった。

ビョンホンを裏切ったから・・・そうではなかった。

彼女の胸が痛かったのは晋作を傷つけたから。

そして彼が温かかったからだった。

「どうしよう。やっぱり私・・・・迷ってる。」

揺は自分の気持ちを前に揺れていた。



揺が村を旅立つ時、晋作の姿はなかった。

急患が出たからといって帰ったらしい。

朝方まで泣きながら起きていた揺の事を起こすことなく

彼は村を後にしていた。

「カッコよすぎるよ・・晋さん。」

10年前もそうだった。

彼の引き際はとてもカッコ良かった。

彼曰くそれがオトコの美学らしい。

今回もとても彼らしかった。

揺は笑って感謝して村を後にした。

そして自分の気持ちを確かめに

彼に会いに行かなければならないと決意していた。

彼に会ったら・・・・この三ヶ月の出来事をすべてきちんと話そう。

はそう心に決めた。





週末。ビョンホンの家には大勢のスタッフが集まっていた。

少し暑かったがお天気も良く

庭でバーベキューを用意してのガーデンパーティーとなった。

そこにはウナから情報を聞き、

いたたまれなくなった彰介も何故か同席していた。

「本当にあの子ヒョンにくっついて離れないな・・・。

あ、手握った。もうこれで10回目だぞ。どさくさに紛れて」

「やだ、回数まで数えてるの?趣味悪いわよ。」

ウナが呆れて言った。

「ヒョンだってまんざらじゃない顔してないか?

この三ヶ月でほだされちゃったんじゃないか?まさか」

焦ったように彰介はそう言った。

「まさかぁ~」笑いながらウナ。

「まさか・・・そんなことないでしょ。」

確かにビョンホンは以前は明らかに気の重そうな感じだったが

最近では慣れたのか彼女を普通にエスコートしていた。

手を握られてもそのままではずそうとはしていなかった。

「まさかね・・・・」

ビョンホンはスエにそっと手を握られながら

不思議な感覚を覚えるようになっていた。

最初は確かに何だか彼女がうっとうしかった。

でも慣れてくると時々甘えられるのが嫌じゃなくなっている自分がいた。

この子は自分が守ってあげないと、

支えてあげないと、教えてあげないと・・・

そう思う回数が自然と増えていた。


スエが俺の手をそっと握って微笑む。

何だかとても穏やかな気持ちになった。

それがユン教授の気持ちなのか自分の気持ちなのか・・・良くわからない。

俺は・・・・何をやっているのか。



ふと我に帰ったビョンホンは何気なく彼女の手を離した。

「オッパ。タリちゃん見たいんですけど。」

「えっ?犬好きだっけ?」

「ええ、大好きです。とってもお利口そうですよね。

写真でみると。どこにいるんですか?」

「犬小屋はあっちだから」

ビョンホンは穏やかにそういうと彼女を犬小屋にエスコートした。

「タリ!ほら、お客さんだ。ちゃんとご挨拶して」

ビョンホンがタリを小屋から出した。

嬉しそうにビョンホンに飛びつくタリ。

「ほら、こっちがスエssi。ほら、ご挨拶して」

「キャ~可愛い。タリちゃんいい子ねぇ~」

スエが頭をなでようとしたその時

「ヴァウッ!!」

いつも大人しくて人に噛み付いたことなどないタリがスエに牙をむいた。

「キャァ~!」

エは驚いてビョンホンに抱きついた。

「ワッワッワッワワンッ!」激しく吠え立てるタリ。

「どうしたんだよ。タリ~。

お前人に吠え掛かったことなんかないじゃないか・・」

ビョンホンがそういいながらタリの頭をなでると

タリは悲しそうに「ク~ン」と鳴いて伏せをした。

「おかしいなぁ~。ごめん。今日はご機嫌が斜めみたいだ。

さあ、もう戻ろう。」

ビョンホンはそういうとスエの腰に何気なく手を回してエスコートした。

「震えてるの?大丈夫?」

スエの顔を覗き込むビョンホン。

「オッパ。怖かったの。」

スエはビョンホンにすがりつきながら震えていた。

迷いながらも仕方なく彼女を抱きしめるビョンホン。

「泣かないで。もう大丈夫だから。

普段はとっても大人しいんだよ。ほら。」

そういうとビョンホンはスエの涙を指でぬぐってあげた。

「オッパ・・・・」

スエが顔を上げ目を閉じた。

その顔は明らかにキスして欲しいと言っている。

現実なのか映画の中なのか・・・ビョンホンの意識は一瞬倒錯していた。

「ワンッ!」タリの声でビョンホンは我に返った。

タリが尻尾を振っていた。

タリの視線の先に・・・・・佇む揺の姿を見たとき

ビョンホンは呼吸が止まりそうなほど驚いた。

反射的にスエの身体から手を離していた。

「揺・・・・・」

揺は何も言わなかった。

そしてタリに近づいて頭をなでてキスをした。

「ただ今、タリ。ありがとう。タリ。バイバイ。タリ。」

そう静かに言うと二人を観ることなくその場を後にした。

「揺・・・待って。」

揺に声をかけるビョンホンの腕には

スエの腕がしっかりとからまっていた。

ガーデンパーティーの会場を表情を変えることなく横切る揺の姿は

異様だった。

「誰?彼女。」

この映画のスタッフは彼女の存在を知らなかった。

この庭で彼女を知っていたのはウナと彰介とオモニとタリ・・・

そしてビョンホンだけだった。

「揺、どうしたんだよ。いつアフリカから帰ってきたんだよ。」

ウナと彰介が揺を呼び止めた。

「今さっき。」

無表情のまま揺はそう答えた。

「誤解。何を見たのか知らないけど、それは誤解だから。

ビョンホンssiは断れなかっただけで

自分から浮気しようなんて全然思ってなかったから。

私が保証する。揺ちゃんとにかく落ち着こう。ねっ。」

ウナが慌ててそう言った。

「そんなことは・・・・・関係ないの。

私は私の気持ちを確かめに来たの。もうわかったから帰る。」

揺は泣くわけでもなく叫ぶわけでもなく淡々とそういった。

二人には彼女が何を言っているのか全くわからなかった。

二人が呆然としている間に揺はオモニのいるキッチンに向かっていた。

「ビョンホンには会えた?」

オモニは優しく訊ねた。

「はい。でもお話はしませんでした。お客様が大勢いらしてましたので。

お母様。私少し彼に会って話をするまでに時間が必要みたいです。

今日はこれで失礼します。また改めて伺いますので。

ウニちゃんにもよろしくお伝えください。」

オモニは揺のいつもと違う様子から

これ以上引き止めるのは良くないと感じていた。

それにビョンホンのロマンスの噂が世間を騒がせていることもあって

すべては撮影が終わってから

二人でゆっくり話し合った方がいいと思ったのも

引き止めない理由のひとつだった。

「ん・・・じゃあ、気をつけてね。」

オモニは優しく言った。

「お母様・・・・感謝します。」

何も聞かずに帰してくれたオモニに揺は感謝していた。

今、いろいろ聞かれたら胸が張り裂けそうだった。

彼女は足早にビョンホンの家を後にした。

ビョンホンがやっとスエを言い含めて

キッチンに来た時にはもう彼女の影はなかった。

「オモニ・・・」

「もう、帰ったわ。ビョンホン、誰に対しても誠実にね。」

オモニはそう一言いうとキッチンを後にした。

ビョンホンは呆然と立ち尽くしたままだった。



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